ABANDONER -THE SEVERED DREAMS-
 メーカー名:UNKNOWN
 発売日:2004/09/17
 メーカーホームページ:
http://www.unknown.co.jp/   評価:A−(80点)
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 このブランドの持ち味である,荒廃した近未来を舞台とした独特の作風・アダルトな雰囲気が好きなのでデフォ買いです。前作「No Reality」は,雰囲気はよかったものの肝心要のシナリオが質・量ともに不満が残る作品だったので,今作ではその辺のてこ入れを期待していたのですが,果たして……。

【システム】D+
 基本的には画面いっぱいに文字が表示されるノベルタイプのゲームですが,メッセージ枠のサイズを可変的にして立ち絵等が表示されるときにはその形を変えたり,文字で絵を覆い尽くし見づらくすることのないように枠の透過度をうまく工夫するなどして,文字・絵の両方を見やすくするように留意している点はいいですね。また,レイアウトにも凝っていて,凄く格好良いデザインになっています(映画のように一枚絵・背景画を表示したりすることが好例ですね)。このように,雰囲気の醸成や文字・絵の見やすさが命のノベルゲーとして,いろいろと工夫を凝らしている点は高く評価したい。さらに,機能面でもバックログや十分な数のセーブ&ロード機能,オートリード機能等,必要最低限のものは整っていた感があります。

 ただ,とはいえ,機能面では不満が残るのも事実。特に(1)オートスキップ機能がない(メッセージをスキップさせるにはずっとCtrlキーを押し続けておかなければならない)こと,(2)右クリックによるキャンセルができない(わざわざ画面右下のbackキーをクリックしないとダメな)こと,(3)バックログで音声再生機能がないこと,(4)シーン回想・音楽回想がないこと(特に前者はエロの観点でいうと大減点),以上4点はかなり気になりました。また,私のPC(Fujitsu FMV-BIBLO NB75G/T)では,長時間プレーしていると突然動作が不安定になって,画像が表示されなくなる/セーブが出来なくなる/終了できなくなる等の不具合がでましたので付言しておきたいと思います。正直,システム的には今ひとつな出来かなあと個人的には思っています。


【音楽・音声】音楽・音声ともA
 どちらも文句なしの出来。音楽はシックな楽曲が中心で,そのまま喫茶店の店内等で流してもおかしくないくらいに格好良い。また,その使い方(いつどの楽曲を流すか)も絶妙で,個人的にはかなり感心しています。効果音の充実ぶり等もそうですが,作中一貫して音に対するこだわりが見られたのは高く評価したいところです。

 また,音声についても男女ともにフルボイスで,出来の方もほぼ完璧。男女ともに充実した演技で,音声が,物語を読み進めその世界の中に自らの意識を没入させていく際に,非常に効果的に作用していました(特に男性)。久しぶりにここまで充実した演技を聞いたような気がします。ただ,一つだけ難点をいえば,あまり演技力の高さがエロの演技にはつながっていなかった(殆どがただ喘いでいるだけなので,高レベルの声優陣を用意してもあまり意味がなかった)点かなあ。


【絵・エロ】絵:A−,エロ:C−
 担当は「大崎シンヤ」氏。「No Reality」でもそうだったし今作でもそうでしたが,かなり大人っぽい絵を描かれる方ですね。この人の絵は個人的にはかなりツボです。塗りも作風にあわせて明るさを押さえた,シャープで暗めのものになっていますが,これがこの人の絵にはよく合うんだ,ホント。絵の描写角度によって顔とかが崩れてしまう点とか,やたらと体つきがよすぎてアンバランスに見えるヒルダの絵等,気になっていた点はありますが,全体としてはよくできていたのではないでしょうか。あと,背景画が充実していた点も特筆すべきところで,こういう一般には手を抜く傾向にある箇所についてもしっかりと作り込んであるところは感心しました。

 また,エロは純愛Hが中心で,1つのHシーンにふんだんに一枚絵を投下しており,1つ1つはかなり丁寧に作っているな,という感を強く受けました。また,着衣H的にも,エレナのHは構図・服の着崩し具合ともに絶妙で,かなりエロい出来に仕上がっていたのは◎(欲を言えば,もうすこしニーソックスに質感を持たせて欲しかったなあ,とか思ったりはしますが)。このシーンはかなり抜けました。

 ただ,やはりエロでは量の面で不満が残ります。各キャラ原則1回のみ(しかも終盤に偏っている)と,エロゲーとしては厳しい出来だといわざるを得ません。また,Hも喘ぎが中心でなんの特殊なシチュもなく,またH自体もかなり淡泊なので,正直抜きゲーとしては使えないでしょう(シーン回想がない点でも抜きのツールとしては使いにくいですしね)。なんかエロに関しては「No Reality」よりも退化しちゃったんじゃないかなあ……と思ったのは私だけかしらん?


【シナリオ】B
 担当は「劣化うらん」氏。敗戦国の旧都トラストラストを舞台に,アバンドナー計画と呼ばれる謎のプロジェクト,そしてその成功の鍵を握る少女エレナを巡って,軍とマフィア,主人公一派が駆け引きを演じる,というのがお話の基本軸。で,その出来ですが,まずキャラ立ては完璧。男女ともに個性的なキャラが多く,紋切り型なキャラクター(たとえばとってつけたような萌えキャラとか,頭のネジの一本とれてしまったようなヒロインキャラとか)が殆どいなかったので,キャラ同士の会話とかを聞いていても結構楽しい。キャラクターがともかく活き活きと動いていて,実際に映画やドラマを見ているような感じにさせてくれたのはよかったですねえ。また,シナリオ自体も,展開を急ぐあまり舌足らずな描写になってしまうようなよくある落ち度は殆ど見られず,終始丁寧に話を描いていたのは○。ノベルゲームとして,最低限押さえるべき点はすべてクリアーしており,感心しました。初回プレーでおおよそ6時間程度(ただ,私は基本的に文字を読むスピードが速いので,人によっては8時間くらいかかるかもしれません)と,やや短めの作品でしたが,メリハリがしっかりとつけられていたので過不足を感じることなく,満足してプレーすることが出来ましたね。

 ただ,やはり話にひねりがないというか,あまりにもお決まりすぎるシナリオになってしまったのは残念。巷のサイトの紹介文とか,作中のエレナの写真を見ただけでおおむね話の全容がわかってしまうくらい,べたべたなお約束展開っていうのは流石にちょっとなあ……というのが私感です。私はお約束展開のシナリオでも描写がしっかりとしていれば高評価を出してきましたが,今作に限っていえばやはりもう一ひねり欲しかった(私をあっといわせるような展開を期待していた)だけに,ちょっと厳しめの評価としたい。世界観は非常に良いのに,チープな結論をつけてしまったせいでそれを十分に生かし切れていないというか,そんなところがあったように感じました。

 あと,テキスト面でも不満が残ります。わざと堅めの言い回しとか難しい語彙を使って話に重みを出そうとしているのはわかるのですが,その使い方が上手くなくて,結局不自然な言い回しになってしまっているところが散見されたのは勿体ない。また,リドルっぽい台詞とかが多用されているんですが,それを多用するあまり話のテンポが失われ,可読性が損なわれてしまったのも残念。あと,誤字脱字が多かったのも考え物で,文字を読ませることを主眼におくノベルゲーだけに,この点にはもう少し気を遣って欲しかったなあと思いました。

 全体としては丁寧なシナリオに仕上がっており,読んでいておもしろいんですが,あまりにも定番のお話なので,途中で真相が読めてしまうのは残念ですね。あと,次回作ではもう少し自然な,読みやすい言い回しにしてくれるといいなあ,というのが結論かな。


【結論】A−
 「全体として丁寧に編まれたノベルゲーの良作。あとはやはりシナリオの底上げが肝要か」。基本的にそつのない作りで,一生懸命作り込んでいることがわかる良作だと思います。工夫・努力の跡が随所に垣間見られる作品で,プレーしていて感心することがしばしばありました。作品の雰囲気も他にはない独特のものがあり,キャラも活き活きとしているので,楽しんでプレーできたというのが私の率直な感想です。ただ,そんななかでやはりネックなのが,使いにくいシステムと意外性の欠けるシナリオ。次回作ではこの2つをもっとシェイプアップしてくれると,文句なしの出来になるのになあ,と個人的には思いました。

 マイ萌えキャラ→やっぱエレナですね。段々と心を開いてくるようになるところとかが最高でした。


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