あえかなる世界の終わりに
 メーカー名:キャラメルBOX
 発売日:2005/12/22
 メーカーホームページ:
http://www.caramel-box.com/   評価:B(70点)
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 体験版をプレーしてみて購入を決断。サイバースペースと現実世界とが交錯して話を紡いでいく,そんなSFチックなストーリーを期待していたんですが,果たして……。


【システム】A−
 非常に使いやすい。評価はこの一言に尽きます。メッセージスキップ機能あり,バックログ時に音声を再生出来る,ホイールマウス・Ctrlスキップに対応,BGM・音声・効果音のボリューム調整可能,ディスクレスプレー可能etc.と,ADVゲームで有ると便利な機能は概ね網羅されています。また,動作も頗る軽くてかつ終始安定しています。ほぼ文句なしの出来ですね。○。


【音楽・音声】音楽:C,音声:A−
 音楽は出来自体は標準クラスの出来なんですが,曲調が似ている楽曲が多いせいか,実際の楽曲数よりも曲が少ないように感じてしまいました。いつも同じ曲がかかっている,そんな感じがしてしまったんですよね。もう少しシーンに合った多様な楽曲を用意できると尚良かったのではないかと思いますね。

 他方,音声の出来は非常によい。実力派声優陣が中心で,演技レベルで不満を感じることは皆無でした。男キャラに音声が無かった点(それ故,男キャラの台詞のみ無音で,そこだけ妙に間の抜けた感じがします。それに,女性陣がやや幼めで高めの声が中心の布陣だっただけに,演技に重みとバランスを出す意味でも,男性の声が欲しかったですね)は残念でしたが,十分な出来だったと思います。


【絵・エロ】絵:B+,エロ:C+
 担当は「のり太」氏。瞳の描き方が特徴的な,若干ロリ系統に偏った絵を描かれる原画家さんと個人的には認識しています。描写角度によってデッサンのバランスがおかしくなる(特に各部位のバランス等)ところが散見されたのは残念ですが,女の子キャラのデザイン・描写自体は可愛らしいの一言で,着衣Hの充実度(とりわけ柚子の制服+エプロンHやRippleのコスチュームHは,服の着崩し方や体位描写が○でグッドな出来です)とも相俟って,高く評価したいところです。

 ただ反面,男性キャラの描写は正直不満が残ります。氏独特の瞳が男性キャラのデザインにそぐわない(妙にバランスが悪い)点や,そもそも男性らしい体格の描写が出来ていないところが多く,見ていて違和感を感じてしまった点など,正直これはどうかな,と思うところが多かったです。あと,本編にHが少ないのも問題ですね。話の進行上差し障りのない(それこそHを省けばすぐにコンシューマー化できそうな)箇所に申し訳程度にHが組み込まれているだけで,はっきり言ってエロゲーとしては失格なように感じました(Hの出来自体は純愛系Hとしては十分及第点なレベルなんですけどね)。一応,本編終了後,「おまけ」コンテンツ内にHが追加されますが,これははっきり言って蛇足。個人的には18禁純愛系ADVにおけるHは「如何にして話の中に上手くHを組み込み,Hを物語を紡ぐ上で必要不可欠なファクターとするか」が重要だ(そうでないなら最初からコンシューマにすべき)と思っているので,こういうオマケ的な扱いには賛同致しかねました。ちょっと残念な出来だと言わざるを得ないですねえ。


【シナリオ】C+
 担当は「ほしまる」氏。今回一番期待していた点なんですが……正直,一番ガッカリした点になってしまいました。話の内容,構成,テキスト,どの面をとっても不満の残る出来です。まず,なんと言っても共通ルートが長すぎる。キャラにもよりますが,基本的にはH+エンディング+αを除いて殆どが共通ルート。そのため,1回プレーしたら(特に,メインとなるRippleのルートをプレーしたら)他のヒロインの攻略は作業以外の何物でも無くなってしまいます(なので,勿論複数回プレーする気力がわきにくくなるのは当然です)。ちょっといくら何でもこれはないだろう,と個人的には思ってしまいました。やはり複数のヒロインを立ててマルチエンディングにする以上は,キャラ毎にシナリオをしっかりと編み,それぞれの観点から作中で描かれている当該事件を俯瞰するような,そんな構成にして欲しかったです。

 また,テキスト面では冗長な説明文が多く,話のテンポを台無しにしてしまっています。何でもかんでもテキストベースで説明し尽くそうと考えているのか,ともかくテキスト垂れ流しによる説明の嵐で,正直やっていて読む気が起きませんでした。しかも質が悪いことに,そういう冗長な説明を登場人物の台詞乃至心情描写のなかに組み込んでしまうので,「ありえない」「不自然な」台詞・心中が多く,読んでいてゲンナリとしてしまった面があります。

 そして何より,読み進めていく毎に読む気が失せてくる話の内容が厳しい。私感では体験版でプレーできるところまでが一番引き込まれたと思っています。それ以降の箇所は読んでいて「ふーん,あっそ」と思って終わりになってしまうことが多く,読み進めれば進めるほど,シナリオに興味が無くなってきてしまうんですよね。自分でもなぜだかよくわからなかったんですが,よくよく考えてみると,やはりプレイヤーの作品へのシンクロを待たずにどんどん勝手に話を展開させていってしまうところが大きいのではないかな,と思います。言い換えれば,読者(プレイヤー)に反芻の機会を与えず,作中の人物への感情移入もさせることもないまま,ライターが考えている展開を淡々と繰り出してしまっていることが,ストーリーへの興味を失わせてしまっている,ということです。プレイヤーが頭を使うことがほとんどないんですよね,このゲーム。考えようと思っても,すぐにコロコロと話を転がして前提を壊してしまうので,読み進める面白さがない。さらに,折角のSF的な設定がストーリーの展開に殆ど役立っていないこと,作中のオンラインゲームの存在があまり有効に活かされていないこと(個人的にはもっとオンラインゲーム内を動き回り,その中でのやりとりが現実世界でのやりとりに反映されてくる,という話を期待していたので,主にストーリーの最初と最後にしか絡んでこなかったのは少し残念でした),随所に張られた伏線を十分に回収しきっていないことなども気になった点です。

 個人個人の好き嫌いもあるでしょうし,とらえ方も色々だと思いますけど,個人的には期待が大きかっただけに残念な出来でした。分量・内容ともに「力作」であることは間違いないんですけどねえ……。


【結論】B
 「しっかりと作り込んでありプレーする価値はあるが,しかし肝心なところで評価を落とした作品。個人差もあると思うが,読み進める毎に読む気が失せてくるのは厳しいと言わざるを得ない」。期待が大きかった反動か,いつも以上に辛口の評価となってしまいました。今回の作品は別につまんない作品というわけではなく,読もうというインセンティブさえ働けば(そして働くかどうかは人によるわけですが)十分に読むに値するストーリーであり,プレーする価値のあるゲームです。しかし,根本問題として,「読む(プレーする)につれて,読む(プレーする)気が起きなくなってくる」というのは重大な欠陥であると私は認識していますので,今回はこのような評価とさせて頂きます。勿体ない。



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