蒼色輪廻
 メーカー名:美遊
 発売日:2004/04/23
 メーカーホームページ:
http://www.mu-game.co.jp/   評価:A−(85点)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 絵の美しさ(特にインフィニティたん!)と異世界越境・輪廻転生ものという作品ジャンルに惹かれて購入。特に後者は当たりはずれの多い点だけに,期待と不安が半々でした。

【ゲームシステム及び内容,攻略のヒント】
 走馬灯システムと呼ばれるフローチャートを軸に現世界及び異世界を行き来し,幾度も死を迎えながら鍵を集めて作品世界全体の謎に迫るAVG。OHPで標榜しているように,本作では選択肢が存在せず,もっぱら「どの時点で時空跳躍を行うか」「どのタイミングで鍵を使うか/使わないか」により進むルートが決定されます。

 なお,TRUEエンドの攻略法についてですが,現世界・異世界両方で18個ずつ鍵を集めた上で(【現世界】→「夢のはじまり」「レザイン」「不信の罪」「誓い」「幸福」「二律背反」「記憶の残滓」「ニルヴァーナ」「桜の咲く頃」「温度」「流れゆくもの」「雨」「純粋」「統一」「日蝕」「冤罪」「いるべきところ」「淫魔」/【異世界】→「双子の世界」「報われぬ世界」「解脱」「忍耐」「特別な存在」「僕は知らない」「遠ざかる栄光」「VOICE」「最期の夢」「修羅」「義務」「永遠」「悔恨」「飛天」「再会」「大儀」「双蛇の秘密」「恩師」),日蝕イベント(時空跳躍を連発してニルヴァーナボタンを皆既日食にすれば発生)を再度発生させると鍵ボタンが点灯しますから,それを選択してウェディングリングを入手してください。その上で走馬灯システムで「インフィニティ」から再開し,鍵ボタンを選択すればTRUEエンドにたどり着くことが出来ます。

 具体的な内容(特に話とシステムの結びつきの妙)については【シナリオ】項に譲りたいと思いますが,このゲームシステムは非常によくできています。というのも,CG回収のための繰り返しプレーを上手く話の展開に盛り込んでいるためです。普通CG回収のために幾度も繰り返してプレーをしたりすると嫌になって途中で放棄してしまったりしますが,本作では全ルートを制覇してCG・Hシーンを回収することがストーリー展開に織り込まれており,しかもそうしないと真相が明かされない(TRUEルートに行けない)仕様になっているので,どうしてもフルコンプせざるを得ない。また,個々人で差が有るとは思いますが,個人的にはそのように繰り返すことにあまり抵抗感を抱くこともありませんでした。これは,本作が輪廻転生ものというジャンルに上手く合ったゲームシステムを用いていることが大きいと思います。つまり,「転生を繰り返す=プレーを繰り返す」と了承しやすい環境にあるということです。ここら辺は一般的なAVGにはないところで,上手いなと思いました。

 ただし,この点は長所であると同時に短所でもあります。なぜなら,何度も繰り返していって徐々に真相を明かしていくゲームであるが故に,何度も何度も同じルートをプレーする必要がありますし,それに,上手く分岐点が見つからないと延々と作中を彷徨うことになるからです。特に,本作では時空跳躍のタイミング如何でも違う結末になったりする(例:大家の娘がレイプされるシーンで,レイプされる前に跳躍するのとレイプ後にするのとでは結末が異なり,回収できる鍵も違う)ので,フルコンプまでにかなりの作業が要求される点は覚悟が必要です。基本的に難易度は高めだと思っておいてください。

 個人的には,丸1日ぶっ通しでプレーして,虱潰しに分岐を調べまくった位,嵌りました。正直好き嫌いの分かれるゲームだと思いますけど,私としては好きですねえ。繰り返しプレーが強要される点についても,「何度も何度も死を迎え,生を繰りかえす」というストーリーを忠実に反映したゲームシステムで,話とやることが乖離していない点は高く評価したい。ただ,分岐の有る無しや時空跳躍のタイミングに根拠が無く,全くの勘に頼らざるを得なかった点はちょっと厳しかったかな。これも「理屈だけで人生は進まないんだ」ということがよく出てて個人的には好きなんですけど,やはりゲームとしては辛い。ちぇりーそふとのようなヒント機能や解答の用意とまではいかずとも,せめて作中にヒントとか伏線みたいなのを設けておいてもらえると,よりユーザーフレンドリーになってよかったのではないかなあ,と個人的には思います。


【システム】B+
 機能的には充実。音声再生機能付きバックログ・各種カスタマイズ機能等,AVGに必要なものは一通り揃っていたと思います。また,動作も軽快・安定していてプレイアビリティは高かったです。ただ,何点か問題点や注意すべき点を挙げると,

 (1)メッセージスキップが使いにくい   具体的には未既読の区別が無い(既読スキップのみ)点やスキップボタンを押さないとスキップが止まらない(マウスクリックをしても止まらない)点などが挙げられます。特に後者は不便に感じたことが多かったですね。

 (2)ディスクレスプレー不可   まあ,これだけだったら他にもよく見られる仕様なんですけど,このゲームはそれだけでなくて毎回起動時にディスクチェックが入ります(パッケ及びOHPにも記載がありますけど,STAR FORCE Copy Protection Systemを搭載しているため)。ですので,起動してからプレーできるまでにやや時間が掛かるのが難点。まあ,10秒程度の差でしかないのではありますが,最初にシリアルキー入力しなきゃいけないのに更に毎回ディスクチェックまでされるのは面倒だなあなんて思ったり。

 (3)バックログモードで表示される字が細かすぎる&字数が多すぎる   私は1頁に多くの情報が詰まっている方が一読して多くの台詞を振り返ることができるので好きなんですが,今作では流石に1頁に情報を詰め込みすぎている感があり,人によっては「詰め込みすぎ」「見にくい」と思われる場合があるかもしれません。

 こんなものですかね。スキップ関係やディスクチェック等,不満に思う点もいくつかありましたが,基本的には十分なシステムであるように感じました。


【音楽・音声】音楽:B,音声:B+
 音楽については特筆すべき点はないですけど,個人的には好みの楽曲が多かったですし(特に「鍵」なんかは軽快で良い感じ),それに作品の雰囲気にもよくマッチしていて◎でした。なお,ボーカル曲は有りません。

 他方,音声についてもなかなかの出来。男性も含めフルボイス(麻矢美樹,一色ヒカル,茶谷やすら,花園朱実,乃田あす実,みる,高橋伸也,谷俊介,広野大地etc.)という点はポイントが高いですし,その演技レベルもかなりのもの。特にサティー(@一色ヒカル)やゲオルグ(@広野大地)の演技は凄すぎ。一部にやや難ありな方もいらっしゃいましたけど,全体的には十二分の出来。模範的な仕上がりになっていると言えるでしょう。


【絵】A
 担当は「和馬村政」氏。個人的にはめちゃツボ。初めて拝見する方ですけど,かなり可愛くて良い絵を描かれます。特にインフィニティたんなんて最高ですよ(;´Д`)ハァハァ。一部の立ち絵やH絵で顔のデッサンの乱れや構図のおかしさが見られた(特に仁奈の騎乗位絵などで顕著)のは残念ですが,全体としては綺麗な絵が多く,大満足。また,塗りもMink系列お得意の独特かつ美麗なもの(やや暗め,独特の光の当て方,淡めな色調ながら塗り自体は陰影がはっきりしているシャープな仕上がりetc.)となっており,絵の魅力向上に大きな役割を果たしていて◎。申し分ない出来といえるでしょう。


【エロ】B
 純愛系・シナリオ重視系のエロとしては申し分ないが,エロ重視系としてはやや不満な出来,といったところですね。1つ1つの出来は丁寧なんですけど,数がやや足りないかもしれません(1キャラあたり1〜5回)。また,本番に至らないH(フェラや悪戯止まりのHなど)や全裸Hの多さ,チュパ音の弱さや卑語の消しの強さなどもマイナスか。あと,本作の特徴としては,

 (1)寝取られシチュが多い   特に美咲Hの1つは「憧れのお姉さんが主人公の親友に寝取られる」という寝取られシチュの王道ですし,また,インフィニティが不細工な騎士団長に犯され,その姿を主人公に見られるのを拒絶するシーンなどもあります。個人的にはかなり抜かせてもらいましたけど,これは人によって評価が分かれるところかもしれません。

 (2)フタナリシチュが多い   まあ,これは異世界での主人公の姿を見れば一目瞭然ですからねえ……。

 (3)輪姦シチュが多い   現世界編・異世界編ともに輪姦は多いです。ですから,私のように輪姦スキーの方は良いですけど,苦手な方は要注意。

 こんなものが挙げられるかな。特に(1)は苦手な方も多いと思うので,くれぐれもご注意下さい。


【シナリオ】A−
 担当は「蓮海才太」氏。結論からいえば,かなり良い出来なのではないでしょうか。話の内容自体は良くある話なんですけど,それを感じさせない,そして先の展開をかなり気にさせてプレイヤーの関心を引くことができるくらい,話の構成が上手い。これは,別にシナリオの出来がずば抜けて凄いという訳ではなくて,ゲームシステムとシナリオが見事にマッチしていることが原因だと思います。【ゲームシステム及び内容】でも述べましたが,輪廻転生することが繰り返しプレーすることに上手い具合に「換言」されており,自分のとった行動とストーリー上の展開がダイレクトに繋がっていているので,やっていてあたかも自分が人生の岐路に立たされ,選択をしているかのように思えてくるのは流石。ここら辺はとても上手いと私は感じました。

 また,それぞれのルート(それこそ数十というルートが存在します)で展開も多種多様であり,中にはむごたらしい死を迎えるものもあれば,恋人とともに幸せに人生を全うするルートもあるなど,さまざまなテイストの話を楽しめるのも良い。そしてその上で,それらのルートで迎える個々の「死」が,最後インフィニティとの関係を描くTRUEルートに結実してくる点は,単なるオムニバス的な,まとまりのないAVG作品とは一線を画していて高く評価したいですね。

 さらに,主人公が本当にどうしようもないヘタレ野郎・クズ野郎なんですが,ここまでファンキーな主人公像が描かれてしまうと,もうむしろ笑ってしまいます(特にエロ本話や異世界編でのサティーの馬鹿っぷり)。あまりの徹底っぷりに清々しい感じすらあります。しかもそのままで終わるのではなく,異世界の出来事を通じて徐々に主人公が成長していく様がしっかりと描かれるなど,全体として丁寧なシナリオライティングであり,とても好感が持てます。

 このように,個人的にはかなり満足しています。シナリオだけを取り出して評価すればそれほどの高評価ではないでしょうが,ゲーム全体で見たときに,本作ほどゲームシステムとシナリオが整合的に結びついているゲームは余り無いような気がします。ただ,1つだけ不満があるとすれば,本作には所謂「ハッピーエンド」の類がないことかな。ルートによってはハッピーエンドに近いものもありますし,それにそもそも私は「必ずハッピーエンドでなければダメ!」みたいな考えの持ち主ではないですが,本作に関してはやはり手放しで喜べるハッピーエンドが欲しかったというのが本音です。

 そもそも本作は,今まで述べてきたことからもおわかりの通り,最終的にはインフィニティのストーリーに帰結します(だから,一部ルートでハッピーっぽいエンドがあっても,結局前座というか,途中経過みたいにしか感じられない面があります)。そして,それまでの過程で,これでもかというほどにインフィニティの魅力,そしてインフィニティに対する愛着みたいなものが描き出されるんですよね。孤独のなかで永い時を過ごしてきた彼女が,徐々にうち解けてくる様が作中において丹念に描かれているだけに,最後は幸せにしてあげたかったなあというのが私感です。

 無論,あのTRUEエンドでも一応の決着がつけられていると思いますし,ああいうエンディングもありかなとは思うんですが,やや投げやりっぽく終わってしまっていますし,それにあまり後味の良くない終わり方だったのは個人的には残念です。私としては,もう少し後腐れ無く終わってくれればもっと良かったのになあというのが素直な気持ちですね。


【結論】A−
 「総合的な完成度・バランスに優れた良作。久々に出た“遊べる”AVG」。いろいろと述べてきたように多少不満な点も有りますけど,それらを補って余りあるほどゲームとしての完成度は高く魅力的。本作のようにゲームコンセプトとジャンル,ゲームシステムが齟齬無く結合したゲームは余り類を見ないかもしれません。また,AVGにも関わらず,単なる紙芝居を超えた「遊べる」ゲームに仕上げてきた点は高く評価したい。今後は更なるシナリオの研鑽とユーザーフレンドリーな発想の涵養(特にヒント機能等),そしてなによりエロの増強を心がけて欲しいところです。まだまだ荒削りな面があるためA−評価としますが,本作については強くお薦めできる,私はそう考えています。今後も,このスタッフの作品は注目していきたいと思いますね。

 マイ萌えキャラ→問答無用でインフィニティ! 素直じゃないんだけど実は主人公にぞっこんなところとか,辛いことを表に出さずに主人公を思ってひとり堪え忍ぶ健気さとか,もうともかく最高。いい娘です。だからこそ,もっと幸せになって欲しかったんだけどねえ……(まあ,あれも一つの幸せの形だとは思うんですけどね)。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

レビューデータベースに戻る